中国のペアのこと、コーチの話



中国のペアのパン・トン&チン・パンが素敵でした。衰えないなあ。いや、大技は難度を下げていますけど、そんなこと無関係に二人だけの世界をしっかりと今回も見せてくれました。
それにあのスタイル維持は魔法としか思えない。綺麗で繊細でダイナミック。特にトン兄さんが氷の上だとはっきりと男性なのにしなやかで繊細ですらっと背が高くて、ちょっと中性的な雰囲気で、がつがつした雄臭さがなくて、「表現に特化した人」だなあと感じます。夾雑物がない感じ。実像はわかりませんが、踊っている姿が魔法のように美しい。もっさりしたところが一切ない。洗練の極みだとわたしには思えます。同じアジア人なのになあ、と何回見ても毎回驚く。
パン姉さんのほうはいつでもすべてを惜しみなく出し切ってくれて、絶対に手を抜かずにどこからどう見ても美しいポジションを絶対にとって投げられたり回されたりホールドされたり、いやすごいですよ。毎回あっという驚きと感動があるいいペアです。

真央ちゃんと同じバンクーバー五輪の銀メダリストで、でも真央ちゃんは、キムが失格なので金メダリストですけども、このペアは実に息長くプロの世界でずっと活躍していますよね。
もう口を極めていろいろ言いたいのですよw

ペアだというのにアイスダンスさながらの優雅で洗練された演技、それもアイスダンスで評価の対象のひとつである演技の同調性もばっちりに、「愛」の世界を見せてくれる。
いまだにスロージャンプもツイストリフトなどのペア特有の大技も、難度こそ下げていますがキレッキレですよ。
本当に好きなカップルです。
ペア特有の大技のものすごさばかりが先走っていてリンクで男性が女性をぶん投げるスロージャンプも、男性が女性を投げ上げてぐるぐる横回転させるツイストリフトも、このペアは嘘みたいにダイナミックですごかった。
そこに滑りの良さや抒情性やミラーステップなどの同調性といった芸術面をどんどん伸ばして本当に技術と芸術が高いレベルで合致した素晴らしいカップルだと思います。

今、フィギュアスケートで中国といえば圧倒的にペアですが、手元にある『ワールド・フィギュアスケート No.14(2004年5月5日号)』によりますと、おっそろしい歴史があったんですね。
この号は、荒川静香がドルトムントの世界選手権で優勝した表紙でして、そのせいでけっこう売れたのではないでしょうか。
が、その特集よりもなお、「ドルトムントから始まった中国フィギュアの24年」という特集がいまだに心に残っています。

中国のペアは、申雪&趙宏博がソルトシティとトリノで銀、バンクーバーで金をとっています。
シュエ・シェン&ホンボー・ツァオは日本語読みで「しん・せつ」さんと「ちょう・こうはく」さんでおぼえやすいし女性の名をとって簡単に「雪組」なんていわれていますよね。こちらもアジア人離れした長身の美男美女でダイナミックでワイルドで繊細でエレガント。アイスダンスのようだ、というのはフィギュアスケートにおける別カテゴリの男子・女子シングルスとペアに対する最大級の賛辞ですけど、氷上の社交ダンスさながらの本当に美しい演技を見せてくれる超大型カップルです。
「アジア人」しかも「中国人」なのに世界の頂点に上り詰めた。これは「白人のスポーツ」であるフィギュアスケートにおいて異常なことであり実に偉大なことなんです。

ロシアの牙城を突き崩し、荒川静香が優勝したドルトムント大会のときはペアのトップ6の中に3組の中国勢が食い入っている。
1980年に初めて中国ペアが出場した同じドルトムントの2004年の時点でですよ。
上からロシア、中国、中国、ロシア中国、ポーランド。尋常のことではないですよね。

お若い皆さんはご存知ないかもしれないですが「東洋人だから点が出ない」なんてことは「常識」だったんですよ。完全な「区別」がなされていた。ノブーオだって、経験している。「本当は君が優勝だったね」と後で白人のメダリストからこっそり言われた日本人スケーターだっている。

そこで勝つ。勝ち抜いた。

中国特有の衣裳もどんどん洗練されていって振り付けも「世界」に遜色のないものになり、ついには世界のトップに立った。
中国国内のペア層の厚みの中で、ツートップ、スリートップが急躍進。

今回のTHE ICE2017に出演してくれたパン・トン&チン・パンもバンクーバーで銀メダル。

この2組が切磋琢磨し続けたことも中国のペアの隆盛と記録作りに大いに力があったに違いありません。
そしてトリノオリンピック銀メダリストの張丹&張昊組もいる。本当に層が厚いです。

中国のペアの隆盛はひとつのペア・スケーターの屈辱とそこから立ち上がった「夢」から始まった、ともいえる。
必ず、世界の頂点に立つペアを育てよう、というありえない夢を実現させた。しかも一度や二度ではなく、アジア人の、しかも中国人に、技術でも表現でも万人をねじ伏せる実力を身につけさせて夢をかなえた。

すごいことだと思うんです。

このコーチの話なんですが、ウィキでは「ヨウビン」となっていますが中国語の発音に忠実な雑誌の表記「ビン・ヤオ」を使います。

この方は中国のペアとして初めて1980年のドルトムント(荒川さんが優勝したときのドルトムント大会より24年前の別の大会です)で世界選手権に出たときに「棄権したい」と監督に申し出たそうです。理由は雑誌をそのまま引用すると「練習で初めて他国のペアの演技を初めて見た時、祖国の恥になるだろうと不安にかられました」とのこと。
要するに中国初のペア「欒波 &姚濱」は、自分たちでさえ「これはアカン」と自覚がある、そんなレベルであったと。
そして6点満点での旧採点で当時あった「席次点」ではショートもフリーも最下位の15位です。
出場しただけですごい勇気だ、というものです。

今、Wikipwdiaを見ると優勝したマリナ・チェルカソワ &セルゲイ・シャフライ(ソビエト連邦)との点差がすごい。

しかもこの方のWikipediaを見ると「観客から失笑をかい」と書かれている。公平性を期すためのやんわりとした表現ですから、映像を見返すときっとそうとうなことになっていたんだろうなあと。
しかし映像が残っておらず、少しの写真で往年を推測するしかないようです。会場にいた方からはどんなふうに見えたんだろうか。1980年のドルトムント大会で中国ペアの演技を生でご覧になった方からのコメントをお待ちしております。

キツかっただろうなあ。後で書きますが「中国だから」いっそう嘲笑されただろう、と推測する根拠がわたしにはひとつあるんですよ。

ちなみにこのとき、日本からは同じく初出場で岡部由紀子&無良隆志が出場し、「119.74」点で12位になっているんですね。
今ジャッジをしている岡部さんと、無良くんのお父様。
姐さんはスペインのグランプリファイナルで岡部さんがジャッジに入って採点をするのを現地で見ました。そのときの「アジアのジャッジ」に対するヨーロッパの観客の反応として、日本の岡部さんにはまあ普通、韓国のジャッジには岡部さんより大きな拍手、これはたぶん次の冬季五輪開催地として死ぬほど会場でアッゲアゲの宣伝をしていたからかなと思います。で、中国のジャッジにヨーロッパの観客が実に実に冷たかった。拍手がまばらにしか起きず、歓声もない。露骨でしたよ、ずいぶん。
だからスペインでは韓国=ちょっと感心があるしいぇーいって言っておこう、日本=普通の反応、ふーん、日本なんだー、中国=はっきりと敵視、ぷんすか、という印象でした。
日本からずいぶんな数の観客が参加していましたから、日本人ジャッジに拍手はいっぱいしたのでしょうが、ヨーロッパの観客って反応が素直で鮮烈なんですよ。採点がおかしいと思ったら椅子の上に立って怒鳴っていたしいいと思ったら「ゴジラ出現!?」くらいの音量で叫んでいたし。数には勝てない反応でした。
まあわたしもヨーロッパの言語七か国語分で「判定がおかしい」「フェアにやれ」「いい加減にしろ」といった罵詈雑言をカタカナでメモしていって存分に叫んできたわけですがw
今は忘れちゃったけど、ワルクチって調べてみると国々で個性が明確で面白いですよね。ヘンな慣用句とか、ネットで調べたので今はあんまり使われていない古い表現とかちょっとズレている意味とかいろいろあったと思います。
最後には隣に座っていたアイスダンス大好きマダムたちといっしょにキャッキャウフフで楽しかった。
あとゲイカップルとおぼしきえらくハンサムな男性ふたりが、選手がいい演技をするとキャーッと叫んで両肘を引き寄せて小刻みな拍手をするのが「おおおおお、女子力めっちゃ高いな!」と感動的だったりwwww
撮影オッケーですし、飲食自由ですし、そのわりに演技中の会場への入退場禁止は厳格だったり、大事な根っこはおさえるけれど、どうでもいいところは自由、というあの空気は実によかったです。

1980年のドルトムントでの世界選手権、Wikipediaを見ると面白いですね。男子シングルでは松村さんが六位、五十嵐さんが8位入賞。女子シングルでは渡部絵美さんが4位入賞(惜しい!すごい!)、薬師蓉子さんが20位、小林れい子さんが21位。小林れい子さんは現在はコーチとしてマスター・ノブーオのアシスタントをなさっている「れいこちゃん」として真央ちゃんのファンには有名な方ですよね。
今、こづも新横浜を拠点にしているし(公式サイトによるとファンレター宛先は新横浜のリンクです)

小林さんはジャッジもなさっていたし、一時期はスケ連のフィギュアスケート強化副部長もなさっていたので、ある意味でノブーオよりもいろいろなことを山ほどご存知なのでしょう。
マスター・ノブーオの講演会で「れいこちゃん」が実物を手に教えてくださった、「”観客の反応”が採点基準に明記されている」ところなんか、会場騒然でしたよね。「観客がもう一度見たいと思う演技」かどうかで点がつくなら、マレー熊のキムとかどうなるんでしょうか。「最初から見たくない演技」でマイナス2万点ですよ。

アイスダンスでも日本の佐藤紀子 &高橋忠之が15位。

日本のフィギュアスケートも実に息長くずっと前からみんなががんばってきたのだなあと改めて思い出されます。

今、コーチやショースケーターをしている人もいたりして実に興味深いのでぜひ1980年のドルトムントでの世界選手権のウィキをご覧になってみてください。

ではこのとき最下位だった中国のペアの、練習環境はといえば、なんとフィギュアスケート用のアイスリンクは全土で「3個」しかなかったそうです。北京に1つ、中国東北部の長春とハルビン。長春はいまだに根強い人気のある陳露(チン・ルー)さんの拠点で彼女はこの翌年の1981年からスケートを始めたそうです。陳露さんはリレハンメルと長野五輪で銅メダル。懐かしい名前ですよね、わたしはいまだにこの人が好きです。
ハルビンのリンクは雪組の故郷ですからここが拠点になります。

当時の中国の環境は、悲しいドルトムントの2年前の1978年に中国のテレビで初めてフィギュアスケートの世界選手権が放送されたそうです。1976年の毛沢東の死後になってスポーツが重視されるようになった影響から解禁されたのだそうです。

しかし、厳寒の長い冬が続く中国東北部では寒さと氷は以前からあったにしてもスケートをする習慣など全然なくて、何もかもほとんどゼロからの出発だった上に、当時、リンクの外で男女が手をつなぐことが中国では「スキャンダル」扱いされるなど、大変な苦労を重ねたようです。
けれども残念ながら怪我のためにペア・スケーターを断念しコーチに回ったビン・ヤオさんは「奇跡の中国ペア」である趙兄さんを見出した。なんという出会いだろうと思います。

客観的に見れば「不幸の連続」「無理ゲーの嵐」としか思えない状況から、雪組やパントン組などを育てたコーチであるビン・ヤオさんは努力をし続けた。素質のある選手に巡り合ったことだって、「見抜く目」がなかったら実現しないことですし、ペアですから男女両方が必要です。男女の体格差があればあるほど有利ですから、華奢でスリムで肥りにくく、だけど強靭で丈夫な体を持ち、過酷な練習に耐えうる女子だって見つけ出さなければならない。

できることは「全部やった」からの五輪金、ワールド金、なのだろうと思います。

真央ちゃんの言葉を借りるのなら長かった、でも、あっという間だった、のだろうと。

だからわたしは中国のペアを見るときに、それがどの組であろうとも「ワールド初出場最下位、観客失笑、二度とスケートなんかするもんか」というかつての選手の姿が必ず心によぎるのです。

若き日の、後の名伯楽であるビン・ヤオ青年が初めての世界選手権で演技を終えて地下の選手控室への階段を降りながら「二度とスケートなんかするもんか」と思ったこと。
そして世界の頂点に立つことができる選手を、圧倒的な力でもぎとることができる技術と芸術の両者を兼ね備えた選手を育てるために、ありとあらゆる苦労に耐え抜いたこと。
その結果が世にも素晴らしい中国ペアにつながっている。
ビン・ヤオのパートナーだった女性も、今、中国のペアのコーチになって、国家レベルで力を入れている「歴史と伝統」の開拓者として第一線で活躍しています。彼女のことは記事で触れられていませんが、ビン・ヤオ青年と同じように「いつか必ずてっぺんとったる!」と思ったに違いありません。

そしてもし二人がスケートをあきらめていたら、今の中国のペアの勝利はなかっただろう。
もう二度とスケートなんか、と屈辱の中で震えた二人は、けれども決してあきらめず、いい選手を見つけ、育て、国家レベルの英雄にして超人気スターになるまでに実力と魅力を兼ね備えさせた。

教え子の「ちょう・こうはく」兄さんもコーチになった。キス&クライであのカッコいい上にもカッコよく、頼もしい明るい笑顔を見せてくれている。いるだけでぱっとあたりが明るくなるような華やかな雰囲気は健在で、座ってないで滑ってください!と今でも思ってしまうほどカッコいいままですよ。

なんですか、中国の国内選手権では人気がありすぎて観客が殺到し、ペアの選手が窓から外に出なければいけないこともあったとか。やりすぎですけど気持ちはわかる。本当に圧倒的な魅力を持っていますから。

二人が今回見せてくれた演技も、日を重ねるほどによくなっていった。
みんなそうかもしれないですが、海外の選手・プロってやっぱり最初の紹介でわーっと歓声が大きいときは、いい演技を見せてくれますよね。
日本の観客はおとなしいとよく言われる、でも、「大好き!」という気持ちは最初に観客が示してこそ、往復、交換される気がします。
そして最初は静かだったとしても、彼らのように演技の力そのもので、また今はご夫婦と言う実人生でもかけがえのないパートナーになって、世界を一緒に回っている二人の絆、二人の信頼、二人の愛情の力によっても、どんどん観客を魅了していく。

本当にいいペアだなあと思います。

日本のペアの歴史にも言い知れぬ苦闘と恥辱と歓喜があった。今もなお、それらは続いている状態。それぞれの思いを胸にして、今日も選手は練習を重ね、コーチは指導を続けるだろう。
そのときそこに、思いやりと優しさと「いいものはいい」とはっきり表現できる観客が、そしてよくない演技にはそういう反応を示せる「見る目があり温かくも厳しい見巧者」の存在があってほしいと願います。

スケートを続けることってやっぱりすごく大変ですよ。リンクもないし、真央のように五輪出場選手なのに練習リンクを求めてさすらう「リンク難民」にさせられたりするわけだし。

だからこそフザけた演技をするのは許せないし、勝ったからには勝者として、ちゃんとした人間であってほしいと思います。

これはスポーツなんですからね。フィギュアスケートというのは。



来てくれて本当に嬉しかったなあ。しかも去年お子さんができたばかりなのに!重ねてありがとうございますだし、真央ちゃん、いい人選をしてくださって本当にありがとうです。

他のアイスショーでも見てきた二人、でも全然衰えを知らない二人、パン姉さんの繊細で美しい洗練されたスタイルと表現、トン兄さんの美しい頭身やエロい動作(ヤバイですよ兄さん、なんだろうこの滴っている感じ、水も滴るいい男ですよね)、二人の「合わせ技」、大好きです。

しかもこの状況下で来日してくれたこと。中国がいま日本に対して何をしているか、ちょっと尋常ではない状態なのに、本当にありがとうという感じです。大丈夫だったのかな、お国に帰って怒られないかな、どきどきしました。外貨を稼いで帰ったから大丈夫だよね、とかいらんことまで。

いつでも何度でも見たい素晴らしいペア・スケーターです。お幸せに、と心から願っています。



中国のペアは実にいい。アジアの抒情と技術と情感は世界を魅了しまくりだ。






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THE ICE2017 | コメント(1) | トラックバック(0) | 2017/08/13 09:34
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