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本の紹介『思惟する天文学-宇宙の公案を解く-』



歴史をやる人は、必ず天文学もやるべきだ。というのが姐さんの持論です。
なぜかというと「地球全体」を見る目がないと必ず「結論を間違う」から。

わたしたちは歴史というものを、あたかもどこか遠くの過去で起こった自分とは無関係なモノを、自分とは無関係な人が大事なものだけ取り上げて「年表」にしているような勘違いをしやすいです。

「歴史」という大文字で書かれた何か大きなモノがあり、それを傍観者として眺めている、受動的な立場のように思い込まされている。
年表を前に「うわー、コレを全部頭に入れるのかー」とウンザリするのは「そうしないと得点がもらえないから」ですよね。

でも学校を出てしまえば関係ない。「試験されるから」ではなくて「自分の生き方を決めるために」歴史を知っていく必要性が出てきます。

「天文学は平等なジャンルだ、誰の前にも宇宙は開かれている」とおっしゃった方がいます。この本にも出てきます。

「限りなく偏らない<目>を持つための探求」をするジャンルとしての天文学。そこに携わる日本第一級の方々の文章が素晴らしい。

『思惟する天文学 -宇宙の公案を解く-』 新日本出版社 税別定価2,000円

思惟する天文学―宇宙の公案を解く
思惟する天文学

公案というのは仏教の禅宗でお師匠さんから与えられる「弟子が答えを出すべき問題」です。
有名なのが隻手の音声(せきしゅのおんじょう)、「両手を叩くと音が出る、片手で出る音は何か」。こんなもん、常識の範囲では決して答えられないトリッキーなものなんです。
「竿の先に旗がある、揺れているのは旗か、風か」とかね。
お師匠さんである坊主というのは、自分もこういうトリッキーな難題に立ちはだかられ、修行者としての自分の全存在をかけて回答してきた歴史を持つ。そして「弟子の全人格から発せられた究極の回答」でなければ頷きません。
なので、隻手の音声の「正解例」は弟子がお師匠さんをひっぱたく、というものだったり、うんうんうなる弟子に対して「揺れているのはお前の心だ、喝!」と「マジか」というような内容で嚇怒されたり、というやりとりも生まれてきます。

この「全存在から出ている答え」を見極めるのがお師匠さんの腕でしょう。

あと男性は修業が大好きなので、ややこしくないことでもややこしくしてうんうんうなる。それが楽しいみたいです。

この本には、ややこしくないことはややこしくないままに受け止めていた例外的な男性が十名登場します。
面白いことに、三度体裁を変えたある天文学の雑誌に掲載されていたことを、長い人は「十七年後」にもう一度同じテーマで書いてもらって、旧、新、のふたつの文章を読めるようになっています。

残念ながら故人になってしまった先生もいらっしゃって、追悼の文章がまた大変に素晴らしくて。亡くなった方とのユーモラスなやりとりと、そこから発生する「決して途絶えない夜空への思い」の熱さに心を打たれます。

ただですね、どうして佐藤勝彦先生のハッブル定数の計算式の文章を最初にもってきちゃったかな、とは思います。超重要だし、これ以上できないくらいシンプルにわかりやすく書いてくださっているんですが、書店で立ち読みする人は「わー、やめとこう」と思ってしまうんじゃないのかと。
いや、この執筆陣を見て「おおっ!」と手を伸ばす人には当たり前の内容なのか。

それはともかく、2,000円です、税別でこの値段。一度手にしていただきたい、そしてビックリしていただきたい。

出てくる先生が全員美形!嘘みたいに綺麗です。
若いころのいろいろむき出しになっちゃっている「わー」な感じの人ですら、年を重ねて経験を積み、穏やかに「美しく」なっている!!!
日本にはこんな「美中年」「美老人」がわんさかいたのだ!!!
日頃政治家の気持ち悪さとかにウンザリな人ほど「美しい上にも美しい」先生方の顔だち、目の澄み切った輝き、清潔な笑顔、すっきりとしたたたずまいにウットリしていただきたい。ビックリしますよ本当に。

それから「すっごくわかりやすい」のが驚きです。超一流の人というのは「自分が何をしているのか」を非常にシンプルにそしてストレートに人に伝えることができる。その最高に良い例がここに集結しています。

天文学に興味がない人であっても、必ずおおっと思うでしょう。

原爆投下に次ぐ大惨事になった富山への空襲経験を生々しく語る先生。「あの星が見えている間は死なない」とお母様に抱かれて「溝の中」に横たわって死の恐怖を耐えた「その経験」。

オウム真理教に入信し、科学プラントを建造してサリンを化合するまでに至った青年をしのび、同じように天文学を専攻できない大学から天文台に通って論文を書き、天文学者になった先生の「彼との違い」の崇高さ。
施設の見学に訪れた孫の手を引いた老婆から土星の輪を見て感激し「冥途の土産になりました」と感謝され、「宇宙の素晴らしさ」を伝える人になろうと決心したというエピソード。
「彼」には「宇宙の素晴らしさ」を伝える相手がいなかった……。

「青白いはず」とあたりをつけて実際に青白い星を発見してしまった先生。世界のX線天文学の先駆けとして同僚の快挙に応じる形でそんな発見をしてしまう先生。

東日本大震災のこと、音楽のこと、各先生方が自分の全存在をかけて「宇宙」と向き合い続けた結果が、なんとも言いようのないほどの深くて新鮮で興味深い「生き方の話」になっている。

科学の最先端にいる人たちがもっとも「宗教的」である、というのはおそらく「人知を超えたもの」と日常的に向き合っているからなのだろうと思います。

知れば知るほど謎が増える。

ダークマター、ダークエネルギー、「謎のファクター」を仮定しないと宇宙全体を語れない。でも設定した瞬間に「対称性」が問われてきて問題が必ず二倍になる!すごい世界だ。
謎を解くから倍になる。
その倍の謎を解くと四倍になる。こんな世界が「毎日」ならば、謙虚にならずにいられない。

SFに出てくるケイ素系生物はおそらく存在しないだろう、なぜならわたしたち地球人が存在の根底にしている炭素ほど、多く結合できないから複雑化が進まない、という話や、SETI計画の話、本当に興味は尽きません。

「どこから来て、どこへ行くのか」は人類の永遠の命題ですが、それは同時に「どんなふうに行きたいのか、どう生きればそれは<良い人生>になるのだろうか」にも直結しているとわたしは思います。

「よくいきる、良い人生を生きるために」ヒントになること。それが散りばめられています。

受け身でいては何も身につきません。
自分で学んでいく姿勢、他の誰が何を言っても「それが本当かどうか」確認していく姿勢、それが学問でも、日々の暮らしでも、なおざりにしていてはいけない基本だと思います。

夜空を見上げる動作の中に「知ることへの憧れ」「知っていくことの喜び」も同時にあってほしいと願っています。



『思惟する天文学 -宇宙の公案を解く-』 新日本出版社 税別定価2,000円

思惟する天文学―宇宙の公案を解く
思惟する天文学




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本の紹介 | コメント(3) | トラックバック(0) | 2017/10/09 19:56
コメント
いつもはROMですが
毎日拝読しています。アネさんの”真央ちゃん愛”のふかさに感動しつつ、またなんと幅広い読書、興味深いご本を紹介頂き、これも追っかけて読んでおります。『古語拾遺』、入手がむずかしそうですが、京都の古本屋をあさればなんとかなりそうな気がする!(関西住みです)本のネウチがわからないブ○フのワゴンにさりげに押し込まれてそうにも思えます^^; 今日ROMの習慣を破って書き込みしましたのは、タイトルを拝見して、”宇宙の公安?九課かっ?草薙素子、宇宙を翔る?”と見当違いにコーフンしたからなんでした^^; (『攻殻機動隊』とゆう、ハリウッドで最近WHITE WASHされたマンガ/アニメがございましてね、長年のファンなものですから...) ちなみに大辞林ひいてみましたら、公案/公安 どちらも訓みは「こうあん」なんですね。ワタクシ公案は「くあん」とよむのだと思い込んでおりましたよ。またひとつ、勉強になりました! というわけで?タイトルおよび文中の「公安」をこっそり「公案」に替えといていただけたらと老婆心。だがしかし、ワタクシのようなアニオタ虫を誘引する効果もありますから??放置でおK!かもしれませぬ。
しかしこのご本、ワタクシがぼんやり書店の棚をながめても、絶対目に留まりませんです。どうやって、こんな「深い」本との出会いを果たされたのか...。その嗅覚?の秘密が知りたいです。
Re: いつもはROMですが
へじほぐさんへ

コメントありがとうございます。

ぎゃーーー!!!!本の題名を思いっきり誤字ってました。誤字る。こんな動詞はありませんが顔を真っ赤にしながら直しました。恥ずかしいーー!!!どうもありがとうございます。みつけてくださってありがとうございます。

欲しい本を全部買っていると破産しますし、置き場所がなくなるので(床が抜けますよね)図書館のお世話になりまくりです。
で、いいなと思ったらできるだけ新刊の間に買うようにしています。
姐さんがいいなと思う本はたいてい絶版なのが残念ですがAmazonのレビューで出版社が絶版にしたことを悔いるようなすんばらしい内容をぶっつけて再販プレッシャーをかけたりとか、ねらっていますよもちのろん。

甲殻機動隊、家族に熱烈なファンがいて漫画からアニメから取り揃えて「見よう!見よう!」と言ってくるので、ビールと柿の種を用意してもらって一緒に見ていますよ。
ただ姐さんが一緒だと口をついて出るのがほぼ文句だけなので(だって気になるんだもん☆)最近はひとりでこっそり見ているようですよ。かわいそうな家族。姐さんなんかと身内だと辛いことばかりだ。タチコマも姐さんに取り上げられたしなwwww
原作だと少佐がエロいこと山のごとしでどきどきです。

電脳世界のネットワーク化はSF好きなら誰でも一度は考えると思うのですが、プラグひとつでどこへでもダイブできるなんてめっちゃいいなあとそこだけはうらやましく思います。

いやもう助かりました、ありがとうございます。他にもいっぱいやらかしていると思うので、また気がつかれたらぜひ!教えてください。よろしくお願いいたします。
揺れてるのは旗か、風か?でかなり考えてしまいましたが… あぁ、そうか、自分が揺れていたのだと納得。
ふとシュレディンガーの猫を思い出しました。
映画「インターステラー」で5次元の概念が映像になったのを見た時になぜか曼荼羅を頭に思い浮かべました。
歴史、宗教、芸術…色々なものを目にし、耳にするとあらゆるものと繋がって行く気がするのですが…
生きている間は繋がる気がするだけで終わってしまいそうです。

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